「オレの愛しい王子様」第13話 彼女の理由

「オレの愛しい王子様」第13話 彼女の理由

それは、朝からしとしとと小雨が降りつづく肌寒い梅雨の日のことだった。榎本茉美は母親に連れられて祖父の葬儀に参列していた。祖父といっても会ったこともないひとだ。母親も含めて皆が沈痛な面持ちをしている中、どんな顔をしていいかわからずひどく居心地が悪かった。葬儀のあと、亡くなった祖父の屋敷に移動したのだが、母親の実家でもあるそこは見たこともないような豪邸だった。母親がとんでもないお金持ちのお嬢様だったことを、茉美はこのとき初めて知った。中学生になりたての娘から見ても彼女は品のある美しいひとだ。それも育ちのよさゆえだったのかと納得する。喪服で儚げにうつむく姿は、不謹慎かもしれないがいっそう美しさが際立って見えた。「史絵」ふいに呼ばれたのは母親の名前だ。振り向くと、喪主を務めていた男性がこちらに歩み寄ってきた。彼は史絵の...「オレの愛しい王子様」第13話彼女の理由